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事業の背景:
2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震/津波により、アチェ州ナガン ラヤ県クアラトリパ郡も80%の家屋が流され、人口(712名)の約15%(99名)が亡くなる等の被害を受けた。5か月経ち、住民は避難所から徐々に元の居住地に戻りつつあるが、家屋は津波に流されたため、戻っても地域はただの平地になってしまっており、現在は元の場所でのテント生活を強いられている。現在政府からの支援は食料に重きが置かれ、もう一度かつての事業を再開したいという住民のニーズは取り入れられていないという。アチェの独立運動により、事業対象地の人口比は女性:男性=3:1と紛争による寡婦が多く、青少年が少ない。津波以前は農業と季節漁業、小規模事業(養鶏、ココナッツ油生産、縫製、小売店経営等)で生計を立てていたが、津波により住民は仕事の道具、家財、財産の全てを失ってしまった。また、長年の紛争により夫を亡くし、家計を支えるのが女性となっている。以前はYASINという女性グループが編成されていたが、津波でリーダーを失い、活動が止まっている。また、コミュニティーセンター等のほぼ全ての公共施設も失い、辛うじて学校が2名の教師によって開かれているだけである。
クアラトリパ郡の住民は、政府(米15kgの配給のみ)やNGOの支援が届いていなかったためか、閉鎖的で外部に対して慎重になっている。人々は現在の状況に辟易しており、あらゆることへの意欲を失っている。家族や財産等、失ったものがあまりにも大きく、何から始めるべきか、何から始められるのか、自身では計れない状態にある。
住民は農業の再開を望んでいるが、津波が引いた後の農地には塩が残り、また一面には未だ瓦礫が散在しているため、すぐに再開するのは厳しい状況である。ナガンラヤ県ではおよそ3,760haが塩害を受けていると考えられ、食糧の自家生産が再開できなければ、今後は飢餓問題を抱えることになる。
漁業再開や住宅再建など、総合的な復興計画を現地NGO(COSA:現地NGOの連携組織、別紙1参照)と立案し、女性の事業再開支援とコミュニティーの復興計画づくりをICAとYAPIDIが担っている。
*ICAは活動の基本を人材育成に置き、合意形成ワークショップは過去20年間実践している。今回はYAPIDIからのワークショップ開催の要望があり、日本からのファシリテーターの派遣が必要とされる。
事業目的:
避難所生活から元の居住地での生活を始めた住民に対し、生活基盤の整備を支援するために、以下の活動を行う。
― 住民の自信を取り戻し、生活を支える希望と活力を見いだすための方向性を見いだす。(コミュニティー復興計画ワークショップ)
― 経済活動をスタートさせるために資機材供与をする。(事業再開支援のための活動)
― 女性の自助努力を促すためのクレジット・ユニオン(金融共同組合※)の結成および持続的な事業経営のための知的支援をする。(事業経営ワークショップ、金融協同組合ワークショップ)※原資は、組合員の積立金である。概要はクレジットユニオン(金融協同組合)について(過去の実践例)【PDF】参照。
事業対象地:
アチェ州 ナガンラヤ県 クアラトリパ郡
Cot Kumbangコトクンバン村 Ujong Padangウジョンパダン村 Padang Ranglilehパダンランキレ村
* パダンランキレ村は津波で水没したため、住民は他2村に分散して滞在している。
事業内容:
1. コミュニティー復興計画づくり(参照:コミュニティー復興計画づくり【PDF】)
事業再開だけでは、コミュニティー全体の活性化には繋がらない。被災後に人との繋がりの重要さに気づいたという声も聞く。コミュニティー全体で復興のイメージを共有することが、地域の繋がりの強化・維持に繋がるため、現状分析〜復興計画立案・実施をカバーするワークショップを実施する。
復興計画づくりはICAが担い、トレーニングofトレーナーズ、参画型の戦略計画トレーニング、自己認識トレーニング等を通して、地域づくり、信頼する人間関係づくり、経済的開発にもつながる計画づくりの為のワークショップを、以下の流れで行う。
参加者は合計45名だが、彼らは各コミュニティーでワークショップの内容を持ち帰り、再び話し合いをした上で実践に移す。間接的な関与も含めると、コミュニティー全体が裨益者ということになる。
【ワークショップ概要】
コミュニティー復興計画ワークショップ
(対象15人/村 × 3ヵ村 × 2回) |
概 要 |
第1段階:
参加型の戦略計画づくり(PSP)
(Participatory Strategic Planning) |
地域復興のためのビジョンを立て、問題解決に向けて、どんな活動を重点的にとるべきか戦略計画をする。チームワークや動機付けをしながら、今後6ヶ月間の行動計画を立て、地域住民や女性グループの役割、責任を明確する。 |
第2段階:
リーダーシップ研修の実施(ELC)
(Effective Leadership Course) |
コミュニティーにおいて、リーダーとしての基本、組織の使命や価値観の共有、計画立案能力、コミュニケーション、事業のモニタリングや評価システムトレーニングを行う。地域行政や住民リーダー合同のキャパシティービルディングをする。組織の立ち上げに有効。
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第3段階:
トレーニングofトレーナーズ
(ToP®-ToT)
(Technology of Participation,
Training of Trainers) |
参加型の技術、ファシリテーション技法、コミュニティーフォーラム、イメージ教育などを通して、プロジェクトの目的を達成できるように人々のトレーナーとなるためのソフト技術を指導する。(これはICAオーストラリアと一緒に実施する。) |
| 第4段階:自己認識プログラム |
住民のニーズに基づいた自立のための自己認識プログラムとして、パーソナルスタイル、時間管理、ラーニングスタイル等を提供し、自分と他者との違いを理解しながら、自己のスタイルに合ったプロジェクトの運営管理を効果的に推進する。 |
*コミュニティーセンターの完成まで(計画中)は、避難テントや屋外等でワークショップを実施する。
2. 事業経営やクレジット・ユニオンの指導ワークショップ
事業再開には経営の知識や実施の際のアドバイス、融資の機会等が必要と考え、事業再開を希望している女性を中心に、ワークショップを行う。ワークショップは事業開始後2〜3週間目から始め、週1回のペースで開催する。
【ワークショップ概要】
事業経営ワークショップ
(対象150人 ( 7グループ )× 9回) |
・事業経営について
・経営経理
・家計管理
・マーケティングについて |
クレジット・ユニオンワークショップ
(対象150人 ( 7グループ ) × 9回) |
・金融協同組合について
・金融協同組合の仕組みと運営
・女性組織としての金融協同組合
・女性のリーダーシップについて |
現地で調査をした結果、女性達はこれまで行っていた事業を再会する事を強く希望している。ICAはトレーニングを通して、女性の収入向上、技術的、社会的な活動を助ける支援をする。
【クレジット・ユニオン(金融協同組合)の設立】
この組合は、上記「クレジット・ユニオンワークショップ」での学習にあわせて結成される。事業を開始し収入を得るようになったら、貯金・融資活動のためのクレジット・ユニオンの活動を開始する。活動開始までは、ワークショップで組合の基本を勉強する。
組合の設立の意図は融資だけではなく、活動を通じて女性の自律を促し、地域の繋がりを強くすることも含んでいる。そのしくみは、毎月組合員が積み立てをし、それを組合の資金として組合員に対して融資を行う、というものである。組合は、女性を中心に編成する。ワークショップの他に定期的に会合を開き、活動に継続性を持たせる。
3. 事業再開支援のための活動(資機材提供)(参照:事業再開支援のための活動【PDF】)
調査の結果、多くの女性が縫製、刺繍、婚礼用工芸品、ココナッツ油製造、養鶏/鴨、農業など、元々従事していた事業の再開を強く望んでいることが分かった。この中で、養鶏/鴨と農業、ココナツ油製造は生産品の地元への還元ができ、連携組織内で指導もできることから、本事業に含むことにした(残りの事業に関しては、ワークショップによる気勢が薄れない内に始められるよう、資金調達など、計画を組み直しているところである)。
養鶏/鴨、農業とも各10グループ(2〜3人/グループ)、ココナツ油製造は6グループ(約3人/グループ)を対象とし、必要とする資機材(農機具等:別紙5)を供与し、グループワークを通して事業再開を目指すこととする。技術指導の特別な機会は設けず、巡回視察等を通し、その都度連携NGOのGBKP(後述)と協力して行うことになる。
資機材は共同で使用・管理する。生産活動の早急な復旧を目的とし、当初は元々事業に従事していた人を対象とするが、グループで活動するため、希望があれば未経験者も事業に参加できることとする。
期待される成果:
住民全員が復興計画に加わることにより、地域の経済が活性化される。
教育とワークショップ、カウンセリングを通し、生活状況が改善されれば、意欲も湧き、トラウマから徐々に回復できる。
※ 物資もなく仕事もないままの生活が続くと物事に対する意欲の回復が遅れるが、事業再建のための機具等を得ることで、復興への志気が高まる。
※ 事業再建や事業管理ワークショップ等の自立を早める活動により、外部支援のみに頼らない復興が出来る。
※ 住民全員が復興計画に加わることにより、地域の経済が活性化される。
※ 教育とワークショップ、カウンセリングを通し、生活状況が改善されれば、意欲も湧き、トラウマから徐々に回復できる。
【最終直接裨益者見込数:コミュニティー復興計画ワークショップ 45人】
【 :事業経営、クレジットユニオンワークショップ 150人】
【 :事業再開のための資機材供与 約84人】
【最終間接裨益者見込数:対象3ヵ村全住民 620人】 |