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(1) 農業復興支援
【事業の背景】
対象地域:(アチェ・バラット県ウォイラ郡、ウォイラ・バラット郡、ウォイラ・ティモール郡、アロンガン・ランバレック郡)
・対象地域の主要な収入源は、圧倒的に農業である。2003年に行われた政府とADBによる地域調査によると、ウォイラ郡、ウォイラ・バラット郡、ウォイラ・ティモール郡における人口の98%、またアロンガン・ランバレック郡の人口の94%が農業従事者と報告され、今回の支援対象地域における被災民のほとんどが農業従事者であったことが分かる。
・多くの住民は農業で生計を立てていたが、旧来の農法は基本的には伝統的な生産性の低い農法であり、有機肥料造成,マルチングなどの基本的な技術も普及しているとは言えない。
・先行事業の農業投入財の配給、及び再定住地・帰還村における農業インフラの整備によって、対象地域における農業再開のための物理的ニーズは満たされた。
・塩分濃度の高い農地の問題は依然として深刻であるが、他方で、農業が実施可能な地域の中には再開されたところも多い。現在、他団体が脱塩化の問題に取り組んでいる。
・支援対象地域は、反政府勢力への支持が強い地域として知られているため、これまで政府による開発支援が遅れており、2003年の政府とアジア開発銀行(以下ADB)の地域調査によると、ウォイラ3郡(ウォイラ郡、ウォイラ・バラット郡、ウォイラ・ティモール郡)の人口の37%、またアロンガン・ランバレック郡の人口の45%は貧困層に属することが分かる。また今回の災害に起因する失業者を含めて更に貧困者数が増加する恐れがある。
・先行事業において行った青年農業技術研修(弊団体が独自に実施したイベントも含む)の効果を測定するためにアンケートを実施した(添付資料3参照)。結果の分析によると、当該技術研修は効果的で、地域のニーズに対応していること、同様の研修を継続実施することにより期待される効果が高いことが判明した。
事業目的
対象地域(アチェ・バラット県ウォイラ郡、ウォイラ・バラット郡、ウォイラ・ティモール郡、アロンガン・ランバレック郡)における主要産業としての農業に関して、農業技術の持続的向上のための基盤を整備することにより、地域経済の復興による再定住・帰還を促進する。
事業区分 農業復興支援
1.青年農業技術研修
2.農業普及リソース・センターの設立
【1−1 青年農業技術研修】
(対象地域:アチェ・バラット県下ウォイラ郡、ウォイラ・バラット郡、ウォイラ・ティモール郡、アロンガン・ランバレック郡)
対象地域周辺は、被災前は反政府勢力が非常に強かった地域であった。津波後は、紛争自体は沈静化したが、一部の地域、特にウォイラ・ティモール郡では最近、衝突の頻度が増加しているとの報告がある。フィンランドのヘルシンキで行われている和平交渉が順調に進展していると思われているが、交渉決裂の可能性がまだ十分にある。こうした政治情勢を背景としながら、対象地域にはまだ多くの被災民が避難生活を継続している。アロンガン・ランバレック郡に最近仮設住宅ができたことにより、一部の避難民が故郷の村近辺に帰還できた。それに対して、最近までテントに住んでいた多数の避難民は、テントが大雨やカビによって居住不可能な状態になってきたので、やむを得ずホスト・ファミリと一緒に住むことになった場合もある。9月からは雨季なので、こうしたケースが更に増加するだろうと思われている。こうした状況の中で、帰還をあきらめて、避難した地域における再定住を望む人数が増えると予想される。
本事業において、弊団体は農業技術研修を先行事業と同じスタイルで実施する予定であり、先行事業における研修の成果が受益者によって高く評価されたと理解している。ただし、先行事業における幾つかの教訓に基づいて、研修の質を向上させる。具体的には、研修当初に農業資材を配給することにより、研修生自身が実践をしながら研修を受ける形態にすることと、研修期間を2ヶ月から3ヶ月に延ばすことにより、野菜の収穫サイクルを実践できるようにすることである。また、当該地域は鶏と山羊の消費量が高く、特に養鶏・牧畜に関する技術研修の要望が多いことから、被災民が地域に再定住し生活を再建することを目指し、18歳から30歳の被災青少年160名を対象に、農業・牧畜・養鶏に関する技術研修を行う。
<研修の実施>
技術研修は、先行事業においても研修を実施したウォイラ郡の農業研修センター、及び同郡クアラベー町にある農業普及員事務所(BPP-Balai Penyuluhan Pertanian−Agriculture Extension Office)にて実施する。BPPはアチェ州政府農業省の管轄下にあり、同州における農業技術の普及を担っている。したがって、本事業終了後は対象地域の農業復興及び農業技術の普及に関して責任を負う立場にあるため、本事業の中でも重要な役割を担っていただくことになっている。つまり、事業の持続性を強化するために、研修カリキュラムの立案、研修プログラム実施管理全般に渡り、BPPの職員との協働において実施する。
各郡の村長が提出した候補者リストをもとにPWJと郡長が話し合い、研修生160名の選定を行う。選定の条件は以下の四項目である。(1)農地へのアクセスがあり、(2)80%の候補者は避難民、帰還民あるいは直接被災者であり、(3)農業・牧畜に強い興味がある、(4)年齢は18歳から30歳までである。平和構築への貢献を確保するために、一部の候補者は元反政府勢力の元兵士であることも各郡の村長にお願いする予定であるが、元兵士の名前は公表しない。元兵士は被災者でありながら、研修の参加することで社会への復帰が促進できる。その上、対象グループを青年に限定したのは、彼らは仕事がない場合に、反政府勢力にリクルートされたりして、紛争に巻き込まれやすい社会集団だからである。農業における収入が確保できれば、紛争や犯罪に巻き込まれる可能性が極めて低くなる。
研修生160名はまず80名ずつ2グループに分けられる。
また、人員配置は下記のとおりとする。
- 農業クラス:研修生〔グループ1(40名)、グループ2(40名)〕、クラスA〜D、講師2名、フィールド・アドバイザー1名
- 養鶏クラス:研修生〔グループ1(20名)、グループ2(20名)〕、クラスA&C、講師1名、フィールド・アドバイザー1名(牧畜クラスも担当)
- 牧畜クラス:研修生〔グループ1(20名)、グループ2(20名)〕、クラスB&D、講師1名事業のスケジュールは添付資料4を参照。
研修期間は8月15日から11月16日までの約3ヶ月間である。研修は3つのフェーズに分けている。第1フェーズのテーマは土地の準備と種まき、第2フェーズは追肥、農薬散布など農作物成長のケア、第3フェーズは収穫と農産物加工である。収穫と農産物加工に関する実際的技術習得の機会を確保するために、研修対象になる野菜は既に播種してある。野菜は、3ヶ月で収穫できる成長の早いほうれん草、トモロコシ、ナス、唐辛子、キュウリ、南瓜、白菜、インゲンなどを栽培する予定である。
尚、当該研修の一部として農業資機材、鶏、山羊の配給を予定しており、研修生が元のコミュニティに戻り、スムーズに研修で得た知識を実践に移すための一助とする。第一回目と違って研修生が新しく勉強したことをすぐ実践できるように農業・牧畜のキット配給は研修の初期で行う。配給用資器材の詳細は予算設計書の添付書類を参照していただきたい。研修生が学習したことを実践できるように、フィールド・アドバイザーを雇用して、研修生自身の農場における実践に関して村を巡回して指導する。アドバイザーは研修のない日に研修生の村を訪問し、実際の状況を確認しながら指導を行なうことになる。研修終了後、研修生が他の村人に新しい技術を教えることができることで、当該地域に適切な技術が導入され、経済復帰への貢献が期待される。
現地執行体制としてはムラボー事務所のプロジェクト・マネージャー1名(0.5人役)、プロジェクト担当1名を配置して業務を遂行する。
【1−2 農業・牧畜リソース・センターの設立】
(対象地域:アチェ・バラット県ウォイラ郡)
〈背景〉
農業・牧畜が当該地域の復興において中心的役割を果たすためには、農民の技術向上を継続的にサポートする必要があるが、現状においてはそうした手段・制度は存在しない。当該地域の農法は生産性の低い伝統的農法であり、インドネシアの他の地域で使われている基本的な現代農法、例えば、牧畜のワクチンなどが多大な効果をもたらす可能性がある。
農業・牧畜に関する図書などの資料を整備した施設の設立によって、研修センターで学んだけれども実践の中で繰り返し参照したい事柄を、研修生が継続的に学ぶ場を提供できる。その上、当該地域の一般農民が資料室を利用して、幅広い技術について学習することができる。
〈事業概要〉
(1) 物資供与
上述の趣旨に則り、卒業した農業研修生及び地域の農民にとってわかりやすい資料をリソース・センターに備品として供与する。対象地域における識字率は農民の間でも非常に高いが、農業普及員や農業研修生との協議の中で人気の高い資料、利用しやすい資料として挙げられた、簡単なパンフレット、小冊子、ビデオ、ポスター、基本図書などを選択して供与する。資料の調達は、メダンにおける農業省職員との協議及び市場調査に基づき、政府発行の資料、民間会社が作成している資料のうち人気の高いものなどを選択する。その他の備品としては、机、椅子、書棚、扇風機などの基本家具、電力供給が不安定なので発電機、また学習用の文具とOHPを供与する。
(2) 建物修復
リソース・センターは、研修の一部が行われるBPP(農業普及員事務所)の中に設立することによって、研修生が授業の前後に気軽にパンフレットや本で調べたり、ビデオを見たり、トレーナーと話したりすることが可能となるので、効果が期待できる。一般農民も資料室を訪問することによって、同じ敷地にあるBPPの事務所を訪問してスタッフに相談することもできる。その上、BPPの前にモデル・ファームを作ることで、理論的にアドバイスを与えることだけではなく、実際の効果を目で見ることができる。以上のような波及効果を目指してBPPの敷地内で廃屋となっている建物を、新たにリソース・センターとして開設するために修復することとしたい。上述のモデル・ファームのための柵の設置、及び電線の補修も行う。弊団体は、リソース・センターの設立に関して当該地域において幅広く広報する予定である。
BPPの中で研修を行ったり、資料室を設立したり、モデル・ファームを作ったりすることによって事業の持続性が強化される。弊団体の撤退後も、BPPを中心に農業普及体制が確立されていれば、事業の継続性が期待できる。その上、弊団体としては、既に県政府及び州政府農業省と長期的なサポートについても交渉を開始している。
現地執行体制は、青年農業技術研修事業と同一である。
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