「辛抱強く、一歩一歩望」
避難民とホストコミュニティの共存のために
~JPFミャンマー避難民人道支援の現場から~

JISPが運営する保健施設(ヘルスポスト)©JISP

ホストコミュニティとの軋轢

ホストコミュニティとは、避難民が来る前からその地域に住んでいた人々や彼らが生活する地域のことです。

ミャンマー避難民キャンプがあるウキア郡・テクナフ郡は、バングラデシュ国内でも非常に貧困層が多い地域です。避難民の流入と長引くキャンプ生活に加え、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、この地域の経済的な負担が増す中、次第に避難民とホストコミュニティ住民の間にも軋轢も見られるようになりました。

ホストコミュニティの人々にとっては、自分たちも厳しい状況に置かれている中、避難民ばかりが支援されることに不満が鬱積しており、両者間の衝突もたびたび発生するなど緊張が高まっています。

そこで、バングラデシュ政府は、避難民キャンプで人道支援を行う NGO に対して、全支援額の 25~30%をホストコミュニティへ支援するよう義務付けています。このように、支援の上では、避難民だけでなく、その土地にもともと住んでいる人々の生活も守らなければなりません。立場の異なる双方に配慮し、緊張緩和と関係改善に向けたさらなる支援が求められています。

避難民支援によって
浮彫になった
地域住民の貧困

この地域には、もともと病院などの医療機関はほとんどなく、人々は十分な診察や治療を受けることができませんでした。 避難民支援を行う中で、特にホストコミュニティの子どもたちが適切な医療を受ける機会に乏しいことが分かってきました。

そこで、JISPは小学生を中心としたホストコミュニティの住民に健康支援や、健康に関する知識向上を目指した活動を行っています。ミャンマー避難民の支援が開始されことによって、キャンプ周辺に居住するホストコミュニティの人々も、同様に貧困やさまざまな社会的問題に苦しんでいる実態が浮き彫りになったのです。

医療のほか、安全な水の確保もこの地域で大きな課題です。特に乾季に水源が枯渇することは、双方の緊張関係をより一層高める原因となります。テクナフ郡周辺では60メートル掘っても、汲んだ水から大腸菌が検出されるため、もっと掘削しなければなりません。IVYは、深井戸の掘削支援を行って、これにより年間を通して安全で十分な量の水を使用できるようになりました。

できる限り続けていきたい
— 現場の医師・看護師たちの
決意

避難民キャンプの視察に訪れたJISPの吉田さん ©JPF
避難民キャンプの視察に訪れたJISPの吉田さん ©JPF
PWJが運営するヘルスケアセンター ©JPF
PWJが運営するヘルスケアセンター ©JPF

2019年から公衆衛生・保健、医療支援をしているJISP。バングラデシュのNGO団体である HMBD Foundationと連携して、キャンプの中で保健施設(ヘルスポスト)を運営し、主に公衆衛生の啓発活動や基礎的な医療の提供を行っています。

この支援事業に携わるJISP代表理事・事務局代表の吉田真由美さんは、支援活動での苦労を次のように話しています。

「衛生状況を改善すると言っても、施設を作るだけではだめで、ホストコミュニティや避難民の皆さんの行動を変えていかなければ意味がありません。丁寧にコミュニケーションを取って意識を変え、行動を促していくまで、かなり辛抱強く行わなければいけません」。

このほか、PWJでもホストコミュニティと避難民キャンプの双方で、地域人材の育成に取り組んでいます。NGOなどの支援団体が医療を提供するだけでなく、住民自らが健康の知識を身に付け、主体的に周りの人々に働きかけていくことがとても大切なのです。

そばにいるからこそ気づく
新たなニーズ

歯科診療所の入り口に掲げられた看板 ©JPF
歯科診療所の入り口に掲げられた看板 ©JPF
歯科医が来院者に啓発している様子 ©JISP
歯科医が来院者に啓発している様子 ©JISP

支援活動の中で新たなニーズが見つかることもあります。JISPの吉田さんは、ある時、ふと気が付いたことがあると言います。それは避難民の人々の中に、歯が欠けていたり、なかったりする人が多いということ。

「避難民の方々の笑顔を見ている時に、はじめは歯の間に黒い隙間がある人が多いと思ったんです」。

調べてみると、キンマ(東南アジア等で古くから見られる風習で、ビンロウともいう。硬いビンロウの実を、石灰を塗ったキンマの葉で包んだ食べ物)や噛み煙草の影響であることが分かりました。多い人だと1日に20~30個も噛む人もいるようで、歯や歯茎の損傷の大きな原因となっていたのです。そこで、JISPは新たに歯科治療の診療所と口腔ケアの啓発活動を開始しました。

「厳しい避難民キャンプでの生活の中で、何か依存するものが必要なのだと思います」。

吉田さんは、彼らの風習を否定するのではなく、彼らの選択肢を尊重しながら、歯磨きを教えたり、今残っている歯をできるだけ残せるような生活習慣を身に付けられるよう診察や治療を心掛けていると話していました。

今では、隣のキャンプや少し離れたキャンプ、また、ホストコミュニティからも歯の治療や診察のために診療所を訪れる人がいて、月ごとに来院者が増えています。

厳しい環境だとしても、
教育機会を届けたい

学校に設置された手洗い場 ©JPF
学校に設置された手洗い場 ©JPF
屋根が修理された教室で学ぶホストコミュニティの子どもたち ©JPF
屋根が修理された教室で学ぶ
ホストコミュニティの子どもたち ©JPF

コックスバザール県は貧困および低就学率が顕著であるにも関わらず、特に中学校には支援が行き届いていません。教員の数が足りず、家庭の事情などで退学する子どももいます。雨が多い季節には洪水や土砂崩れが起き、災害の影響で学校に通えないこともあります。

PLANはウキア郡のホストコミュニティへの教育支援として、中学校を対象として、特に女の子たちが安全、快適に学び続けることができるよう学習環境を改善しています。生理用品や防災グッズを配ったり、感染症予防のための手洗い場を設置したりしてきました。また、教員の人材育成にも取り組んでいます。時に先生から、雨漏りする学校の屋根を修繕してほしいと頼まれることもあります。

ホストコミュニティ出身者の中には、避難民キャンプの学習支援施設でサポートスタッフとして働いている人もいます。教育関係の仕事経験があり、 避難民が話す言葉と似ているチッタゴニアン方言を話す人を中心に採用し、避難民キャンプの学習施設で働くスタッフの支援や、NGOとの業務調整などを担当してもらっています。

互いに手を取り合って

立場の異なるホストコミュニティと避難民。しかし、それぞれを支援し課題を改善していくことで、お互いに手を取り合い、協力し合いながら生きていく — そんな日が必ず来ることを信じて、今は一歩一歩、私たちは支援を続けていきます。

年々、ミャンマー避難民支援プログラムの資金が縮小してきています。
ミャンマー避難民、子どもたち、女性たち、ホストコミュニティのため、
皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。

関連セミナー

JPFは、2022年11月16日(水)、オンライン・セミナー「もっと知ろう!ミャンマー避難民~バングラデシュに逃れたミャンマー避難民の避難民キャンプでの暮らしの現状と課題~」を開催し、100名以上の方にご参加いただきました。

本セミナーでは「避難民キャンプでの暮らしの現状と課題」に焦点を当て、先行きの見えない中で避難民がどのような生活を送っているのか、5年間の活動を通じて見えてきた課題はどのようなことかを、現地で活動を続ける加盟NGOスタッフおよびJPFスタッフからお話させていただきました。また、参加者の皆さまからのご質問にもお答えし、困難な状況にある避難民の現状について皆さまとともに考える内容となっています。ぜひ、ご視聴ください!

皆さまからお寄せいただいた
ご質問への回答

上記セミナーに関連して、JPF支援者の皆さまやセミナーにお申込みいただいた皆さまから、多数のご質問をお寄せいただきました。そうしたご質問への回答をこちらのページに掲載していますので、セミナーとあわせてご覧いただければ幸いです。

ミャンマー避難民、子どもたち、女性たち、ホストコミュニティ―のため、皆さまのご支援を。

ミャンマー避難民、子どもたち、女性たち、
ホストコミュニティのため、皆さまのご支援を。

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