国際協力NGOジャパン・プラットフォーム(JPF)

紛争や災害時の緊急人道支援を行うNGO組織 ジャパン・プラットフォーム

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プレスリリース 2022年10月13日

ガザ地区人道危機支援のさらなる充実を目指し「電力危機が子どもの健康と教育に与える影響」について調査報告書を発行

ガザ地区人道危機支援のさらなる充実を目指し「電力危機が子どもの健康と教育に与える影響」について調査報告書を発行(PDFファイル 878KB)

緊急人道支援団体のジャパン・プラットフォーム(東京都千代田区/以下、JPF)は、2021年10月~2022年1月、「ガザ地区における電力危機が子どもの健康と教育に与える影響」に関する調査を実施し、このほどその結果をまとめた報告書を発行しましたのでお知らせします。

JPFは、深刻な人道危機が続くガザ地区の人々を支援するため、2014年8月からJPF加盟NGOとその現地提携団体とともに、食料、シェルター、健康、障がい者のリハビリ・職業訓練など、さまざまな支援活動を継続的に行っています。現場で活動する加盟NGOスタッフからは「電力の供給は安定性・信頼性を欠き、また供給時の品質も劣悪という危機的な状況にあり、現地のあらゆる社会・経済活動に悪影響を与えている」という声が上がっていました。しかし、実際に現地の人々の日々の生活にどのような影響を与えているか、特に脆弱な立場にある子どもへの悪影響についてはこれまで調査されたことがなく、「最も脆弱な人々を考慮した支援を実施する上で情報が不足している」という加盟NGOの問題意識を受けて、本調査を実施しました。以下のコメントは、調査の過程で浮き彫りとなった現地の状況の一例です。

  • 「ガザ地区には停電の影響を受けない場所はない」(ガザ地区行政官)
  • 「(停電により医療処置が滞ってしまうため)誰が生き延びるべきかを決める委員会を作る必要があった」(ガザ地区保健省職員)
  • 「夏は暑すぎる。きちんとした冷蔵庫を持っていないし、停電も起きるので、子どもの健康に良くないと分かっていても、缶詰を食べさせざるを得ない」(5人の子どもを持つ母親)

本調査では、脆弱な人々の中でも、多くの加盟団体が支援対象とする子どもに焦点を当て、慢性的な電力不足が健康と教育に与える影響について調査しています。加盟NGOが今後さらに質の高い支援計画を立案する上で、本調査が現地の最も脆弱な人々のニーズと優先課題等について最新かつ正確な情報源となることが期待されます。本調査の概要や調査結果の主なポイントは以下の通りです。

調査の概要

  • ガザ地区の電力事情についてより深く理解するため、現地の調査専門会社に委託し、関連する研究および資料のデスクレビューのほか、関係者に対し以下の調査を実施した。
    ≫ 定量調査アンケート(ガザ全地区から無作為に選ばれた保護者200名を対象に実施)
    ≫ デプスインタビュー(男女8名に対し、詳細なインタビューを各1回実施)
    ≫ 主要情報保持者インタビュー(ガザ地区の保健省や教育省などに対し計5回実施)

調査結果の主なポイント

【ガザ地区における電力危機の概況】

  • ガザ地区では、一般的に1日12時間を超えて電気を利用できる人はごくわずかで、大半の人(アンケート回答者の60%)が1日8~12時間、約3分の1は1日7~8時間の電力アクセスに留まっている。人々は生きていくうえで必要なレベルの電力は使用できているが、それは現代社会が必要とする電力の25%に過ぎない。
  • イスラエル軍はガザ地区に対し継続的な攻撃を行っており、水のほか、電力のインフラが破壊され、パレスチナ当局が市民のニーズを満たす電力を供給することはほぼ不可能である。こうした電力の不安定な供給状況が、社会や経済活動のあらゆる側面において悪影響を及ぼしている。特に子どもの健康と教育への影響は大きく、新型コロナウイルスの大流行とならんで、ガザ地区における生活状況を悪化させる主要因となっている。
  • 以下、電力危機が子どもの「健康」と「教育」に与える影響について本報告書のポイントを紹介する。

【電力危機と子どもの健康】

(医療)

  • 電力不足が医療システムに与える影響は大きく、特に乳幼児や2歳未満の子どもは、肺炎などの致命的な病気を防ぐための予防接種を受けなければならないものの、予防接種に必要なワクチンの冷却装置に影響が出ている。また、冬場の暖房不足が子どもたちの間で肺炎を引き起こす一因となっている。
  • 頻繁な停電により、医療用機器が損傷したり、診察が遅れたりと、医療処置が長く滞るという問題が生じている。

(水・衛生)

  • 電力が供給される時間は限られているため、水供給ネットワークが安定していない※1。このため、食器洗い、家の掃除、または洗濯といった毎日の家事をこなし、個人の衛生状態を維持することが難しく、市民の健康に影響を及ぼしている。
  • 電力不足により、水の殺菌システムも十分に機能できておらず、電気へのアクセスが制限されている人は、水を媒介とする病気にかかりやすくなっている。

(栄養)

  • 電力不足により冷却や冷凍ができないため、健康的な食事をとるこができずガザ地区の家庭は栄養不足に陥っている。多数の人(アンケート回答者の56%)が、新鮮な食材を使った食事を1日1食しか子どもに提供できおらず、缶詰などの調理済み食品や冷蔵を必要としない食品に頼っている。

(心理的健康)

  • 多数の人(アンケート回答者の50.5%)が、電力危機によって精神的ストレスが増加しており、それが家庭内暴力の増加につながっている。今回の調査では電力アクセスと暴力レベルとの間に相関関係があることが示された。精神的な問題は、あらゆる面で子どもに影響を与え、親や仲間との交流能力を低下させている※2

(障がいのある子どもたち)

  • 電力不足によって最も悪影響を受けているのは障がいのある子どもたちである。電気機器の助けを借りて行っていたことの多くは手動で行うことができないため、日常生活への対処が困難になっている。例えば、電動車椅子や電動ベッドなど移動や運動を助ける機器における支障が、学習意欲や健康に悪影響を及ぼしている。

※1:Al-Iqtisadi, 2021. https://bit.ly/3JHRjVo
※2:International Journal of Behavioral Development. 2008. “Child Development and Family Mental Health in War and Military Violence: The Palestinian Experience”. https://sci-hub.hkvisa.net/

【電力危機と子どもの教育】

  • 半数に近い子ども(アンケート回答者の46%)が、しばしば停電で光源の無いなか学校の授業を受けている。また「自宅では停電の少ない早朝や深夜に勉強せざるを得ない」と報告している子どもも多い(同36%)。こうした状況が、不登校や生徒のドロップアウトなど、ガザ地区の教育部門が以前から抱えていた問題をさらに悪化させている。
  • 新型コロナウイルスの影響により教育の多くがオンライン化されたため、電力不足が教育に与える悪影響はより大きな問題となっている。大半の生徒(アンケート回答者の73%)が、オンライン授業に出席できないと報告している。

調査報告書には、上記ポイントに加え、電力危機の影響を緩和していくための提言等も含まれています。報告書の全文(英語のみ)は、下記JPFホームページで閲覧可能です(「調査報告書」タブをご覧ください)。

The Impact of the Electricity Chronic Crisis on the Lives of Children in the Gaza Strip (Focus on child health and education)(英語)
https://www.japanplatform.org/programs/gaza2014/

また、上記ホームページには本報告書のほかに、ガザ地区における保健分野の主要課題と全体像を把握することを目的とした調査(調査期間:2021年9月~12月)の報告書「Health Sector Needs Assessment in Gaza Strip(英語)」も掲載していますので併せてご覧ください。

JPFは2014年8月から現在に至るまで、ガザ地区を支援するため「パレスチナ・ガザ人道支援」プログラムを継続的に実施しています。また2021年5月のガザ地区への空爆等による被害を受け、さらなる支援を届けるため「ガザ地区人道危機緊急対応」プログラムも展開しています。JPFおよび加盟NGOは今後も、ガザ地区の人々に寄り添った支援を継続するとともに、今回のような調査やモニタリング・評価等を通じて、加盟NGOとともに支援の質とアカウンタビリティの改善に努めてまいります。

特定非営利活動法人(認定NPO法人)ジャパン・プラットフォームについて

コソボ紛争の経験を教訓に、NGO、経済界、政府の対等なパートナーシップのもと、2000年に発足した日本の緊急人道支援のしくみ。平時より、3者および多様な人々が、強みや資源を生かして連携できるプラットフォームとして機能し、国内外の自然災害による被災者、 紛争による難民・国内避難民に、迅速かつ効果的に支援を届けています。これまでに60以上の国・地域において、総額760億円以上、1900事業以上の人道支援活動を展開。各得意分野を持つ40以上の加盟NGOを様々な形でサポートしながら、緊急人道支援のプロフェッショナルとして、支援を必要とする人々のニーズに根ざしたプログラムを実施しています。

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本件に関するお問い合わせ先

特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォーム
渉外広報部 宮永、事業評価部 松本

TEL:03-6261-4035 E-mail:info@japanplatform.org

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