12/17(水)【緊急開催】アジア広域水害被災者支援2025 プログラム説明会
ジャパン・プラットフォーム(JPF)
2017年8月、ミャンマーから大規模な数の避難民がバングラデシュに流入しました。8年が経過した今も、同国南部に位置するコックスバザールの難民キャンプには110万人以上が暮らしています※1。キャンプでは過密化やインフラ不足、不衛生な環境、女性や子どもへの暴力などが深刻化し、現地コミュニティへの大きな負担となっています※2。
また、バングラデシュ政府はミャンマー避難民※3の送還を前提としているため、同国内での就労(キャンプ内での一部の仕事を除く)や恒久的な住居の建設を認めておらず、長期化する避難民の生活をどう支援していくかが喫緊の課題です。
2025年9月、ジャパン・プラットフォーム(JPF)の評価チームが難民キャンプを視察しました。
ホストコミュニティを視察したJPF評価チーム ©World Vision Japan
加盟NGOのワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、JPFの助成を受けて2019年から難民キャンプでの活動を開始し、2021年からは支援の対象を、キャンプが所在する地域のコミュニティ(ホストコミュニティ)にも広げています。
ジェンダーに基づく暴力(Gender-Based Violence: GBV)の予防・対応に関する啓発活動、行動変容の促進、女性の尊厳の回復と自立に向けたエンパワーメント※4促進などの活動を実施しましたが、長引く避難生活や新型コロナウイルス感染症対策による行動制限から、GBVの件数は増加傾向にありました※5。
評価チームが訪問した難民キャンプでも、親しいパートナーからの暴力、児童婚・早婚、人身取引などが報告されたほか、ホストコミュニティでは女子の外出や教育機会の制限、性暴力、ホストコミュニティの男性と 避難民女性との重婚などが問題になっていました。
こういった現地の文化や慣習に起因する状況に対応するため、WVJは人々の行動や考え方の変容を促進する活動に取り組んでいます。
◆GBVのリスク防止と対応を学ぶ: コミュニティリーダーの育成
会合では全員で問題を話し合う ©World Vision Japan
難民キャンプのプロジェクトでは、 GBVの概念や問題の起きる背景、適切な対応について理解を促すとともに、コミュニティでGBVが起きた際の解決に影響をおよぼすことのできるリーダーを育成しています。対象の約20名は、リスクを洗い出し分析するマップ作成、計画策定などを学び、啓発キャンペーンの実施運営に2年以上携わっています。また、毎月開かれる会合では、家庭内暴力、児童婚の要因となる結婚持参金や人身取引、強制婚などの問題について全員で話し合い、協力して予防や解決に取り組みました。
【コミュニティリーダーの声】
問題の原因をとらえ、解決に必要な考えや概念をまとめた掲示。見る人の興味を引く色使い、見せ方に工夫している ©World Vision Japan
◆定期会合の実施: ホストコミュニティにおけるGBV保護委員会
難民キャンプに隣接するホストコミュニティでも、WVJは同様の研修を実施。定期会合 (GBV保護委員会)では、地域の有力者、コミュニティリーダー、ユースリーダーが、その月の活動を発表し、課題や考えなどを話し合います。
参加メンバーからは、GBVの啓発活動を通しコミュニティの人々の行動に生じた変化や、妊娠した女性を病院に案内できたこと、通学する女児へのいやがらせに介入し発生件数を減らせたことなどが挙がりました。また、児童婚は心身に悪影響を及ぼすことを親に説明し、結果として望ましくない結婚を防いだなどの報告もありました。
【GBV保護委員会メンバーの声】
◆若者から大人まで、女性が知識・スキルを身につける場を提供

研修に参加した1年で「自分と家族の人生が大きく変わった」と話す参加者も ©World Vision Japan
GBVの不安を抱える人、暴力などの被害を受けたサバイバーの心の安定や自尊心の回復、参加者のネットワークづくりを目的に、WVJは「女性と女子のためのセーフスペース(Women and Girls Safe Space)」を運営しています。
セルフケアを学ぶグループセッション、裁縫教室、手工芸品の制作、調理実習などの活動に加えて、思春期の女子を対象にしたGBVの知識を身につける研修も実施しています。
【参加者の声】
GBV保護委員会のメンバーとJPF評価チーム ©World Vision Japan
◆難民キャンプとホストコミュニティの視察を通して/JPF評価チーム
難民キャンプでコミュニティリーダーたちが、GBVや心のケアなどについて意義や考えを生き生きと発言する姿に、問題意識を自身の生活に落とし込み、前向きな変化が起きていることが伝わりました。そして、それがさらなる自信やこれからの希望につながっていることも感じました。背筋が伸びる思いです。
ホストコミュニティでは、プロジェクトに参加する全員が活動に大きな意義を見出し、地域のためにさまざまな取り組みを展開しようとする意欲があふれていました。
「女性と女子のためのセーフスペース」に集う避難民女性たちは、穏やかな笑顔で体験を話してくれました。安心できる居場所やつながりがあることへの誇りと安心感、喜びが強く伝わってきました。
政情に左右され、選択の余地なく強いられた避難生活がいつまで続くのか、祖国における政治的な混乱はいつ収束するのか、先が見えない中で避難民となった人々が抱える不安は、私たちには計り知れません。このプロジェクトが彼らの自信や自尊心を育て、希望を持ち続けることに大きく貢献していることを感じました。
JPFとWVJは、GBVに対する予防・対応能力の強化と支援に今後も取り組みます。
※1 UNHCR, Myanmar Situation, 31 Aug 2025
※2 ISCG, Inter-Sector Needs Assessment - Bangladesh, 22 April 2025
※3 民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し、「ロヒンギャ」ではなく「ミャンマー避難民」という表現を使用します。
※4 人生や生活の課題に向き合い、自ら選択・解決できる力を高めること。
※5 UN WOMEN, Rohingya Response, June 2023
※6 GBVの被害を受けた方を「サバイバー」と呼ぶのは、その人を単なる被害者としてではなく、「困難を乗り越えようとする主体的な存在」として尊重するためです。「無力な存在ではなく、強さと回復力を持つ人として尊重する」「尊厳を守り、エンパワーメントを促進する姿勢を示す」という思いが込められています。
今、知って欲しいJPF最新のお知らせ